第2章  全国チェーン化を目論む企業


2.千 房



 とうりゃんせと並ぶもう一方、「千房(本社大阪市、中井政嗣社長)」は「客層を広げ、高級感を出す店作り」をコンセプトに「ぷれじでんと千房」を誕生させた。

 1号店が`82年9月に南店、`85年5月に北支店、同10月に上六の都ホテル内にステーキハウス風の高級お好み焼き店を出店している。千房の東京への進出は`88年6月の「千房渋谷109支店」に始まる。続いて同年12月に「ぷれじでんと千房六本木店」をオープン。15ミリの鉄板を円形に広げ、カウンター式の店作りは、立地、デザインとともに「お好み焼き屋離れ」しており、一見お好み焼き店には見えない。

 渋谷109店は、10代の若者を中心ターゲットとし、渋谷店だけの「渋谷焼き(ハンバーグ入り)」など、客単価は1,200円前後である。これに対して、六本木店はより広く中高年まで意識している。六本木交差点に面した超一等地に建った誠志堂ビルの6階、40坪のスペースに客席はわずか32席。インテリアは黒を基調に金モールを配し、「貴族的なイメージ」を売り物にしている。また、客単価も約3,500円を見込んでいる。

 無論、お好み焼きだけで3,000円、4,000円取ろうというのではない。新鮮な素材を使った鉄板焼きのメニューとお好み焼き・焼きそば、アルコール類を組み合わせたコースで満腹感とお値打ち感を打ち出すのが、これまでの「ぷれじでんと千房」の戦略。六本木支店では、活魚や豊富なワインでコースの高級感を高めようというものだ。

 メニューのネーミングも独特でオリジナルが多い。プロセスも複雑なため、待つ側の客も焼き順を見る面白さがあり、退屈させない演出効果も併せ持っている。(旧)西独ハーダー社製のカービングナイフとフォークを使って、ステーキハウス顔負けのナイフさばきを見せてくれる。「かぐや姫(筍と満月にみたてた卵のねぎ焼き)」や「白雪姫(まっ白なメレンゲ入りのフワフワのお好み焼き)」などのオリジナルメニューは、全員で持ち寄った新メニュー案の試食をくり返して、商品化されたものだという。

 また「ぷれじでんと千房」では、お好み焼きの生地にも気を使っている。この「おねり」と呼ばれるお好み焼き生地は、中力粉、かつおだし、長イモ、ベーキングパウダー、みりん等を材料とし、ホットケーキの生地程度のやわらかさにされている。具にも気を使い、有頭エビのブラックタイガーを初めて使ったのも「ぷれじでんと千房」である。しかも、頭と尾からエビのエキスを出した後も、カリカリに焼き、殻焼きとして提供するなど気がきいている。

 もともと同社は、「とうりゃんせ」とは対照的に、システム化、マニュアル化を極力抑え、手作りの味を売り物に成長してきた。すべて焼き上げた完成品を提供する方式であるため、アルバイト比率はカジュアル型の「千房」で約60%、高級志向の「ぷれじでんと千房」では30%以下だという。

 多くのお好み焼き店は70%以上が女性客なのに対し、「千房」では40%近くが男性客。「ぷれじでんと千房」においては、接待、商談に使われるケースが非常に多く、60%が男性客であるのが大きな特徴のひとつである。

 これからも「手作りの味、手作りの経営」を標榜する「千房」のノウハウの究極の姿を実現することで、広く「千房」の存在をアピールしていくのだという。