第3章  消費者の目、経営者の目、お好み焼き


1.多様化した定義づけ



 お好み焼きの定義は非常にあいまいである。食材をみても、共通点はただ一点、小麦粉のみである。その小麦粉も、薄力粉、中力粉に分類すると、お好み焼きにふさわしく十店十色の顔を持つ結果になってしまう。これは他の食産業には決してみられない一面である。例えば、ハンバーグはひき肉、タマネギ、パン粉が、トンカツは豚肉と小麦粉、卵、パン粉と、必ず数種の食材が共通しているのだ。

 お好み焼きの基本である生地作りをみても大きく3分類される。具もシンプルな「総ぼて」の場合、水と塩だけで溶く。これは自慢のソースの味を引き立たせたい、具のうまみを食べてほしいという主張がある。また、広島風お好み焼きはクレープ状にうすくのばして焼くスタイルなので、生地に本格的な味つけはせず、主な店をみてもみりん、卵、化学調味料と水といった具合に、あくまでシンプルである。

 また、水と卵や塩、醤油、砂糖、白ザラメ、重曹などの組み合わせで溶く店も数多くある。このように単に水で溶くとはいえ、各店がさまざまな工夫をこらしている。

 さらに、和風の昆布だしやかつおだしをベースにする店がある。「ぷれじでんと千房」もそうである。一方、鳥ガラスープと山芋やツクネ芋で溶く店もある。これらの店は水のかわりにスープをベースに溶いているのである。

 生地作りでこれだけの相違が出るお好み焼きの定義は、中に入れるものでよりあいまいになる。

 豚のお好み焼きを例にとってみよう。卵を入れた豚玉と、入れてない豚のお好み焼きに差別している店と、はじめから卵を入れた豚玉しか置かない店とがある。また、卵臭さを嫌って卵を一切置かない店も存在する。キャベツもすべての店で使っているかのようだが、関西で「ねぎ焼き」がポピュラーなことをみればわかるように、キャベツだけが使われているとは限らない。

 さらに、天カスでも、イカ天入りの天カスを使っている店やよい天ぷら店から良質の天カスを仕入れている店もあれば、反対に天カスを一切入れないという店もある。

 生地作りに個性が出るお好み焼きは、一方で少数材料多品目メニューを構成できる代表の食べ物である。20品目のメニューを提供する場合、ベーシックな生地に使用する食材も含めて約30品目の食材で提供できる。他の業種で20品目のメニューを提供する場合、平均40〜50種の食材が必要とされている。しかも、小麦粉、卵、豚肉といった市場が非常に安定しているといった大きなメリットがあり、商品としての有利性が高い。

 以上のように、食材面からお好み焼きの定義を考えてみると、次のようになる。即ち、「小麦粉を水分で溶いたものに具をのせたり混ぜたりして、鉄板(銅板、陶器)で焼いたもの」である。言い換えれば、多様化したお好み焼きは鉄板焼きの一種だといえる。以前のようにお好み焼きと鉄板焼きを区分けする時代は終わりを告げた。各お好み焼き店がメニューの充実と客単価アップをはかり、一品料理としての鉄板焼きを揃えているが、それらとお好み焼きはスムーズにドッキングしていることからも説明できる。お好み焼きとしてより、鉄板焼きの一ジャンルとしての今後の可能性を検討する必要があるといえるのではないだろうか。